みなさんは「アーバンガーデニング」もしくは「アーバンガーデニング運動」という言葉を耳にしたことはありますか?
コロナ禍でおうち時間が増えたことで、ガーデニングを始めたという方も多いのではないでしょうか。
「緑に囲まれた生活を送りたい」と思っても、人口が集中する都心に住んでいる場合、郊外のように庭付きの住宅やアパートを所有するのは難しいものです。しかし少しのスペースさえあれば、都心でも十分ガーデニングを楽しむことができます。
今回はアーバンガーデニングの展望と課題を、アーバンガーデニング先進国であるドイツ ベルリンから学びましょう。
アーバンガーデニングとは?
名前から察していただけるとおり、アーバンガーデニング(Urban Gardening)とは「都市農園」のことです。近年、都市圏に住む人々が共同スペースを使用し、野菜や果物といった作物の栽培を行う動きが広がっています。こうした取り組みを「アーバンガーデニング運動」と呼びます。
東京を例にとってみても顕著ですが、多くの人々がアパートや小さな家に住んでいます。もちろん、植物を世話するスペースは考慮されていないことがほとんどです。こうした満足なスペースがない都心でも、商業ビルの屋上や使われなくなったイベントスペースなど、ちょっとのスペースさえあればアーバンガーデニングは簡単に始められます。
欧州や欧米で広がっていったアーバンガーデニング運動
アーバンガーデニング運動は、1860年代にドイツの都市ライプツィヒで始まった「クラインガルテン(小さな庭)運動」によって加速していきました。
当時のライプツィヒでは工業化が推し進められており、人口が増加・集中するなど、望ましい住環境ではありませんでした。そこで子どもたちの心身の健康を維持すべく、都市のはずれに小規模な農園を作る運動が始まったのです。これがアーバンガーデニング運動の発端にもなった「クラインガルテン」の誕生でした。ドイツを中心に、欧州、さらには欧米にまで普及していきました。
財政危機に見舞われていた70年代前半のニューヨークでは、低所得者層が暮らす地区が開発から見放されていました。そんな中、手つかずになっていた多くの空き地を地域住民自らが手入れをし、植物を植える「コミュニティガーデン運動」を始めたのです。ここにきてアーバンガーデニングは「地域再生」の色も持ち始めました。
アーバンガーデニング先進国:ドイツ ベルリンの例
アーバンガーデニング先進国であるドイツの首都ベルリンには、100以上ものガーデンがあります。100年以上にわたり、アーバンガーデニングを行ってきました。
ベルリンでも1989年のベルリンの壁の崩壊により、ニューヨーク同様に都市にも空き地が多く点在していました。この空き地を利用して、アーバンガーデニングが次々と誕生していったのです。
気候変動や物価の高騰、食糧不足の影響を受けて、ベルリン中でアーバンガーデニング運動が加速しています。
消費者自らの手によって作物を栽培することで「自分が食べる食材が、どのように手元に届いているのか」を考えるきっかけになります。子どもへの食育にも一役買っていることでしょう。
行政や施設の管理者にとっても、健全なコミュニティの運営による住環境の向上が期待でき、地域活性化にもつながります。
自然と共存するベルリンの人々の生き方
現在のベルリンでは、希望者がガーデニング用の区画を借り、そこで自分の野菜や果物を育てるスタイルが一般的になりました。週末に農作業をしたり、緑に囲まれた環境の中で家族や友人とバーベキューをしながらビールを飲んだりして楽しんでいるようです。
ドイツは健康や環境保全、動物愛護に関心の高い国としても知られます。ヴィーガンやベジタリアンの比率も多く、環境に優しい商品を取り扱ったショップが多く立ち並ぶベルリン。自分たちの口にする食事や環境に、市民の関心が高いのは自然なことなのでしょう。
アーバンガーデニングが抱える課題
一見すべてが順調に見えるアーバンガーデニングですが、実は常にリスクと隣り合わせなのが現状です。その不安要素は土地の問題です。
アーバンガーデニングの最大の特徴は、都市の小スペースを活用したガーデニングです。国によって大々的にスペースが確保されているわけではありません。多くのアーバンガーデニングは土地所有者と暫定利用の契約の下に成り立っています。つまり、急に契約を解消されるリスクをはらんでいるのです。
アーバンガーデニング先進国のベルリンでさえその財政状況は厳しく、都市としてより発展するためには援助金を利用して開発を推し進めていく必要があります。すると今のようなデッドスペースを活用したアーバンガーデニングの存続は危うくなるでしょう。今や観光スポットとしても人気になったアーバンガーデニングの1つ「プリンセス・ガーデン」でさえも、存続は不安定な状況にあるのが現実です。
日本におけるアーバンガーデニング
続いて、日本におけるアーバンガーデニングにも目を向けてみましょう。
日本でのアーバンガーデニングといえば、住宅街や郊外にある畑の数区画を借りて、花や野菜を育てるというイメージが強いです。趣味の一環で個人的に利用されることが多く、ベルリンのように利用者同士が交流することは滅多にありません。
作物の世話には手間もかかります。時間的にも金銭面でも余裕のある、ごく一部の人の間でしか利用されないものとなっています。
つくばアーバンガーデニングの例
ここで、茨城県つくば市のアーバンガーデニングの例を見てみましょう。つくば市では、つくばアーバンガーデニング委員会が発足し、つくば産の花を活用しながら市民ボランティアとともに花壇整備や管理、交流会などを実施する取り組みがなされてきました。
5年間の活動実績
1998年の発足にはじまり、翌年の1999年には「全国花のまちづくりコンクール」団体部門最優秀となり、建設大臣賞を受賞しました。
つくばアーバンガーデニング活動前は市内に花の量が少なく、それが地元産というわけでもありませんでした。活動後には公共の場所に毎年約5万株、約400万円の地元生産の苗が植えられるようになりました。
毎回の花植えには幼児から高齢者まで、また、学生から主婦まで平均40名が参加し、和気あいあいとした雰囲気の中で作業が行われています。公共の場を自らの手で飾り、賑やかにすることで、街への帰属意識が生まれたといえるでしょう。
日本でのアーバンガーデニングは諸外国に追いつけるか?
つくばアーバンガーデニングの項で紹介したように、日本での取り組みとしてはまだまだ諸外国のような「コミュニティガーデン」としての色が薄いことは事実です。しかし、市民が協力して花を植える、ボランティア同士で交流をする、といった目的でのコミュニティガーデンは各地で広がりつつあります。
参考:東京都江東区の例
参考:東京都三鷹市の例
さらに、大型商業施設の屋上をコミュニティガーデニング用のスペースとして開放したり、空き地や線路際のちょっとしたスペースを活用したりしたアーバンガーデニングも徐々に見かけるようになってきました。
これらの中には個人借りでなく、他人とシェアするタイプのものも増えてきているようです。ベルリンのように、街中にコミュニティガーデンが広がる日もそう遠くないかもしれません。
まとめ
東京を歩いていると「なんだか以前より緑が増えたな」と感じることが多くなった気がします。
人口減少により郊外のみならず都市部でも、今後ますます空き地の増加が予想される日本。しかし、アーバンガーデニングという言葉が当たり前に聞かれる時代も、すぐそこまで来ているようです。人とのつながりを感じることが少なくなってしまった現代だからこそ、アーバンガーデニングがもたらす「人と人との交流」にも期待したいですね。
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